アーネスト・ヘミングウェイ
『老人と海』
『老人と海』と わたし
今思えば、『老人と海』を初めて読んだ中学生の時、私は人生の分岐点にいました。長い間学校に行くことができず、先の見えない不安にも慣れ始めていた時、老人の自らを鼓舞する言葉たちが強く響いてきました。読後、「あれだけ頑張ったのに何も残らなかった」という失意はなく、「失ったもの以上の意味を得た」ように感じて、不思議と心が救われました。
この小説は海での場面が主に描かれており、登場人物や会話文も少ないものの、場面ごとの描写が緻密で思わず惹きつけられる魅力があります。そうした物語の世界観を装丁で表現できるように、“老人”や読者に多くを与える“海”そのものをイメージして、制作に取り組みました。
“海”のような装丁を目指して
本文ページを波のように見せるために、一枚一枚変化をつけました。その際、紙の質感を活かそうと考え、水を使って千切っています。又、海の深さをイメージして紙の色を選び、グラデーションになるように重ねました。作中、カジキマグロがサメに食べられて骨だけになってしまう様子を文字組みで表現しようと思い、場面に合わせて文字量を減らしていったり、白色でプリントするなどの工夫をしています。
至高の紙工
電子化が進み情報が氾濫した現代で本の価値を再考し、制作したポスター。情報をよりすぐり、職人たちの手によって手間暇かけて出版される本たちを至高の一品と捉えた。それを池田紙工の職人たちに呼びかけることを狙いとした。