「Soil cafe」
土と陶器に向き合うカフェ

髙田萌子

作品の概要

陶器を魅力的にさせるためには、どんな空間であるべきか?
栃木県の益子を制作拠点とした成井窯の陶器の魅力を伝えるために、素材開発から、都内にギャラリーを作る計画をしました。敷地は、表参道の住宅に囲まれた場所に設定。そこに来た人に、①土と陶器に向き合う空間②陶器と人に向き合う空間を作ることで、初めて陶器を手にしたときの記憶をいちばん豊かにさせることができると考え、大まかな設計から、細かな陶器周辺の素材開発を行いました。

「土がもつ豊かさを追求すること」を主題に、素材の実験や全体の空間設計を進めていきました。

⑴ 成井窯と、都内のギャラリーの調査

→成井窯に実際に訪れた時の調査や、都内のギャラリー(清澄白河にあるten、CIBONE、白日、THREE AOYAMAなど)を体験したときの発見の記録などを、 note にまとめています。

↑ (成井窯の魅力)急須の注ぎ口や持ち手が、蹴り轆轤で形成された粘土に接着されている。その作家さんの手の形跡を私たちが辿ることができる。
↑ 釉薬に火が通った形跡
↑ 敷地:東京都渋谷区神宮前4丁目

⑵ 調査から得た、器の魅力をさらに感じるための空間の答え

初めて器を手にしたときに得た体験は、器そのものに記憶されていきます。そんな大切な体験を、一番魅力的にできる空間について探りました。

❶器周辺の空間も素敵であり、「手」と器が長くコミュニケーションできる場所があること
周りの空間次第で、器自体の魅力が変わってくるような体験をして得た答えです。そしてもう一つ大切なのは、そこに来た人の「手」と器が向き合い、じっくりコミュニケーションできる場所があることです。

❷器周辺の要素は、陶器と関わりあるものであること
器と、器を展示する机、周りの壁や床などの要素、それらの素材の「意味」が全て陶器(成井窯)と関わるものになっていたら、そこに来てくれた人には器を超えたさらに広い空間から「成井窯」を感じとることができます。

❸器の周りで、人が会話をすること
初めて器を手にしたときに得た体験は、器そのものに記憶されていきます。
器の周りで、器に関する素敵な会話がされていたら、器を持ち帰りその人が暮らしの中で使う度に、その記憶を思い起こしながら、大切に使っていただけるのではないかと思いました。


❶❷❸で満たされた空間を作るために、
益子(陶芸の場所)だけでなく都内にいる人にも身近に、もっと近い距離で土の豊かな表情を感じてもらえる場所をつくりたい、という思いで「土を感じるためのカフェ」として設計することを決めました。

↑ 断面模型:左…土と陶器に向き合う空間(gallery)、右…陶器と人に向き合う空間(cafe)

⑶ 調査から生まれた空間デザイン「soil cafe」

↑ 設計した空間の1番大切な場所...作家さんとお客さんが会話をする、土と陶器に囲まれたカフェスペース(陶器にお茶やコーヒーを入れ、実際に使ってもらいながら会話をする)

・陶器の棚:成井窯、焼く前の器を干すために使う棚
・机、椅子など:大谷石...成井窯の細工場、囲炉裏の周りでも実際に使われているもの
↑ 土でできた、入り口までのスロープ

◆敷地:東京都渋谷区神宮前4丁目(表参道、KOFFEE MAMEYAの向かい)
住宅などの建物に囲まれる場所に、突然現れる土の山です。

◆動線
スロープを降りることでだんだんと土と人が近くなり、入り口に入ると表参道の風景からは閉ざされた、土に包まれた空間に入ることができます。
・入り口を入ってすぐの空間は、「土と陶器に向き合う空間」(gallery)
・もうひとつ奥の空間は、「陶器と人に向き合う空間」(cafe)です。

↑ 設計した空間の断面スケッチ
↑ 平面図
❶同じ材料でできた、色の変化のあるタイルと、
❷生き物のような成井窯の器を表現させるための針金

⑷ gallery、cafeに使われる実際の素材の実験
(器のすぐ周りの空間デザイン)

成井窯の方々に協力していただき、益子の粘土と釉薬、そして使えなくなった割れた陶器などを材料に、素材の実験を行いました。
器のすぐ周りの空間でも、できるだけ多くの要素を成井窯と関わるもので美しさを演出したいと思いました。


❶同じ材料でできた、色の変化のあるタイルと、
❷生き物のような成井窯の器を表現させるための針金
❶全て同じ材料の土と釉薬でできたものですが、登り窯で焼く際に、配置場所を変えて火を通すことで生み出された、色の変化のあるタイルです。
この複数のタイルが空間の一部になっていれば、火の温度の違いが生み出す土の変化を、陶器ではなく空間から、一目で感じ取ることができます。
❷成井窯の器の「生き物らしさ」を更に演出できるよう、曲線にカーブさせた針金を、花瓶などに挿しました。
針金は、実際に成井窯で器作りに使用するときのものです。

◆その他の実験

②モルタル+割れた陶器の敷物[写真左下]

③同じ土と釉薬でできたタイル2[写真中央右]

④粘土は焼くと縮む…粘土に、割れた陶器を混ぜ一緒に焼くと、粘土のみが縮み、粘土にヒビが入る。[写真中央上]
→そのヒビを生かしたものを陶器の敷物にする[写真右上]

⑤板状の粘土の素焼きのものを、粗目の益子の土の質感を伝える敷物にする[写真左上]

②モルタル+割れた陶器の敷物[写真左下]

③同じ土と釉薬でできたタイル2[写真中央右]

④粘土は焼くと縮む...粘土に、割れた陶器を混ぜ一緒に焼くと、粘土のみが縮み、粘土にヒビが入る。[写真中央上]
→そのヒビを生かしたものを陶器の敷物にする[写真右上]

⑤板状の粘土の素焼きのものを、粗目の益子の土の質感を伝える敷物にする[写真左上]
⑥マグカップの取っ手を作るときのように、しごいて伸ばす方法で作った値札(0の字は、陶器の小物入れの蓋の裏をスタンプにして使用)[写真上]

⑦益子の土でできた成井窯の看板[写真下]

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#成井窯 )…器作りを中心とした、成井窯の豊かさを覗くことができます。

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今後私ができること

何よりも、今回の卒業制作にあたってかけがえのない体験となったのは、成井窯をきっかけに私の周りで生まれた新しい繋がりです。
3年生の4月頃、「祖父の窯」という認識しかなかった私は、陶器とスペースデザインは全く別の分野だと思い込んでいました。
しかし、ゼミの先生に祖父の窯をテーマにすることを勧めていただき、調査を進めていくほど、今までの人生には無い繋がりに巡り会うようになりました。
(…もし私が祖父の窯に入り、陶芸だけを学んでいたら出会えなかったもの、逆に陶芸という繋がりを持ってスペースデザインを学ぶ道を選んだからこそ出会えたもの)

これからも祖父が遺してきたものが私たちの中から消えてしまわないように、私なりの行動力で素敵な繋がりを作っていけたらいいなと思います。

【私ができること】
・成井窯や益子焼に貢献すること
・私が知っている分野の中で必要としている、「土」を使った小物のデザインを考え、成井窯に提案し、作ったものをその世界に持っていくこと
 
今はそんなものが漠然と、頭の中に浮かんでいます。

なので自分の作った作品は、ここが出発点であると信じたいです。
世界中にはまだ私の知らない、陶器を売る素敵な空間が沢山あると思います。

今後も私なりにそれらを探し続け、そして祖父や成井窯のように、土の世界で生きている方々を尊敬し、理解し、貢献できる存在になれたらいいなと思います。

この繋がりや体験を私に与えてくれた、祖父、成井窯、桑沢に感謝をしたいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

【作品協力】
陶器のデザイン:成井窯
陶器の敷き物(タイルなど)のデザイン:成井窯+高田萌子
調査をした場所:成井窯(栃木県益子町)

髙田萌子
神奈川県生まれ
2021年 桑沢デザイン研究所・スペースデザイン専攻 卒業

祖父は陶芸家・成井恒雄[-2012](成井窯)

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