時とつながる ハレとケのある暮らし
代田の地名は巨人「ダイダラボッチ」に由来しているというおもしろい言い伝えが残っている、と民俗学者の柳田國男が著書で発表してから約90 年。ダイダラボッチの足跡と伝えられている池は埋め立てられ、そこから流れる川は暗渠化された。
このように丘陵や農地は整備、宅地化され、戦後の豊かな新住民が多くを占めるようになった今では、かつての想像力あふれる言い伝えや地域の風習や記憶が薄れてしまった。
今では人口のせせらぎが流れる自然豊かな緑道がこの地域の魅力である。
しかし、現実的な「緑豊かな高級住宅地」としての魅力だけでなく、「ダイダラボッチ」のような非日常性に暮らしの中で触れることこそ、生活を心から豊かにし、地域独自の魅力を高め、街に愛着をもつことにつながると考えた。
ダイダラロッジは住人の生活の中に地域の人を誘い込む。日常と非日常がゆるくつながっている暮らしとなる。
CONCEPT:ハレとケのある暮らし
代田のダイダラボッチを発見した民俗学者の柳田國男はこの地域をひたすら歩き、地形を調査したという。彼が広めた概念のひとつに非日常の「ハレ」、日常の「ケ」がある。このダイダラボッチの言い伝えは「ケの中のハレ」つまり、日常の中に非日常がゆるくつながっていた証しだと考えた。ダイダラロッジの中心には、ダイダラボッチの足跡をモチーフとしたくぼみがある。その周囲は道となり、本来の等高線にそって道が続いていく。道の間に空間ができ、建物が立つ。そして5つの扉がくぼみを取り囲む。暮らしという日常の行為の中に、非日常への扉を置いた。この扉の開閉によって、公と私、外と内、日常と非日常、ハレとケの境がゆらぐ。
POINT:ハレとケが入れ替わる
日常の中庭は、巨人サイズの扉を開くことで演劇舞台となる。普段の通路は、祭の日には花道となる。室内のカーテンは、舞台に出ると幕となる。緑道の公園と下北沢をつなぐ小道を歩かなければ、不思議なくぼみは見つからない。扉を開き、道を歩くことでハレの日のウキウキとした気持ちをこの街に届けたいと考えた。