潮と時の満ち干きに沿った 葦編みの生活
耳を澄ましながら奥渋を歩くと、地面からせせらぎを聴こえる。しかし、そこに川の姿は無い。かつて渋谷に流れていた川は、人間によって暗渠と化し、フェンスに囲われ鬱蒼としている。昨夏、豪雨で渋谷の駅周辺は一時水没した。川が、自然が、怒っているのではないか。と畏怖の念を抱いた。
ー ここは200年後の渋谷。
温暖化や度重なる川の氾濫により渋谷の中心部は既に水没し、ほとんどの人は陸に住んでいる。
しかし、かつて奥渋であった“神富入江”に、潮の流れに沿ったゆっくりとした生活を送っている人々がいる。
その人々が住む集落の総称は“浮遊後定着集落”である。その集落は一つ一つに個性がある。そこに住む人々は、潮間帯に住む生物・フジツボの生態に倣い、気の向くままに水上を浮遊した後、辿り着いた場所に定着する。
“浮遊後定着集落”の中でも、葦編みの集落は大きな役割を担っている。屋根で葦を育て、1年を通して収穫・栽培する。枯れた葦は住戸同士を繋ぐ浮遊部分になる。
今は定住を主としている人間は、もうフジツボのように自由に生活できないのだろうか。
