人と空間の時間的な関係性を視覚化する
私たちが椅子に座るとき、その空間には確かに「人の存在」が生まれる。[Trace of Absence]は、人が「いる」と「いない」のあいだに生まれる“痕跡”に着目し、空間と時間に残る余韻を可視化する椅子だ。
-コンセプト-
この作品は「家具が人の存在を通して空間に影響を与えることは可能か」という問いから生まれた。
人が立ち去った後、座面はゆっくりと揺れを残しながら元の形へと戻ってゆく。揺れが徐々に減少していく様は、まるで“誰かがそこにいた”ことを語るかのように、空間に静かな余韻を与える。
椅子そのものが主役ではなく、そこにあった“人の痕跡”を伝える椅子。
本作品は、機能性でなく、情緒や記憶を空間に残すための新しい椅子のあり方を提案した。
-デザインと構造-
椅子は、黒に塗装した合板とスチールを用いて、全体的に冷たい印象を残すように意識した。人の存在を暖かさとした時、人が立ち去った後により対照的な空気感を作るためだ。
また、特徴的な揺れの動きや洗練されたデザインを生み出すために、回転部分にはベアリングを用い、工房と連絡を取り合ってスチール部分に軽やかさが生まれるように意識した。
-想定する場所-
美術館や図書館、大学のラウンジなどの設置を想定している。人が行き交い、流れのある空間に設置することで、日常の中に人の痕跡を残したい。
