日本語書体「凌霄花(のうぜんかずら)」

児玉篤司

中国の石碑から着想を得た日本語書体

中国雲南省曲靖市に保存されている墓碑・爨宝子碑(さんぽうしひ)。私はその碑を初めて見たときに、稚拙でありながらも温もりのある素晴らしい文字だと思いました。すぐに拓本を取り寄せ、日本語書体の制作に着手しました。爨宝子碑は今から1600年以上前の西暦405年に中国の豪族である爨宝子を悼むために彫られた墓碑です。その中には日本語には見慣れない字形や字の省略の仕方、始筆終筆の角度や水平垂直の骨格などに特徴が見てとられます。それらの要素を私なりに捉えて、秩序立てた日本語書体を制作しました。

書体名の由来

書体の名前は凌霄花(のうぜんかずら)です。凌霄花は夏頃に赤色の美しい花をつける中国原産の植物です。爨宝子碑の一文に凌霄(りょうしょう)という言葉が出てきます。その意味は「霄(そら)を凌ぐように世俗を超越しようとする気高い志」です。その言葉が入った花の名前である凌霄花をこの書体の名前にしました。

書体の設計

私が一番力を入れたのは、平仮名と片仮名の設計です。なぜなら、元となった石碑には漢字しか存在しないので、そこから漢字と一緒に組んでも違和感のない平仮名と片仮名を創造する必要がありました。特に平仮名は漢字の角ばった形に対して、平仮名特有の柔らかい表情が出るように、なおかつ漢字と組んでも違和感がないように設計しました。
制作した文字数は平仮名・片仮名・漢字・記号を合わせて計492文字で、それらの文字を本にまとめています。

書体をまとめた本

制作した書体は凌霄花の花の色と同じ赤色の本でまとめました。製本は和綴じ。表紙と背、小口を赤くして本の束を包み込むように外観をデザインしました。本文は白く柔らかい和紙。本の内容は、着想となった爨宝子碑の碑文の内容で示した組み見本と、制作した平仮名、片仮名、漢字を一覧する字形一覧です。

本のサイズ 234×303mm
使用した紙 表紙 レザック80ツムギ(炎)170kg
本文 テーラー(白)68.5kg
ポスターのサイズ 770×1456mm
使用した紙 雲龍紙

参考文献
天来書院テキストシリーズ26 爨宝子碑

児玉篤司
熊本県生まれ。
工業高校卒業後、自動車メーカーに3年間勤め退職。
桑沢デザイン研究所に入学し、ビジュアルデザインを学ぶ。趣味は文字。特技は溶接。

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