maria
疲れた人へ贈るハグセラピーチェア

芹澤比加里

ハグがもたらす効果に着目した心のケアのための椅子

現代はストレス社会と言われるほど人々の精神に対して負荷の多い世の中です。
技術が発展し体に対してのケアは容易になれど心というものは自他共に視認することができず、それ故か社会的問題、自身の体を蝕む程にならなければ大抵の人は自分の心に対してのケアを蔑ろにしがちです。
特に私がタイトルで指している「疲れた人」というのは体自体は健常でストレスを感じながらも無理をして休息を取らず通勤、通学を続けている人たちのことです。
そういった無理はいずれ余裕の無さとして現れ周囲の大切な人愛する人にまで危害を加えるきっかけとなってしまいます。
どうかそうなってしまう前にほんの少しでも休息のきっかけ、休息したくなる魅力のあるプロダクトを作れないかと考え、私は「ハグ」のもたらす精神作用に着目しこの椅子をデザインしました。
誰もが見たことのある聖母マリアの子を抱く姿をイメージした嫌なことも1時は忘れて赤ちゃん帰りできる心のケアに重点を置いた椅子です。

ハグによる効果と効果的なハグの条件

ハグという行為にはリラックスやストレス軽減効果があり、ストレスの3分の1が解消されるとも言われているほどです。
ハグをすると幸福ホルモンとも呼ばれ、モルヒネの数倍にあたる鎮痛作用があるβエンドルフィン、愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンといったホルモンらが分泌され、リラックス効果や安心や幸福を感じることができます。
これらのハグの効果は対人だけではなくお気に入りのぬいぐるみや毛布などの肌触りの良い物を抱きしめるといった事でも同様の効果を得ることができますが条件として「愛しいもの」であることが必須となります。
ハグの効果の源であるβエンドルフィンやオキシトシンは愛しいと思う物、人に対してのみ分泌され苦手な相手やものに対してのスキンシップではむしろ逆効果になってしまうため、ハグセラピーを叶えるプロダクトを作る上では見た目質感共に愛しい、抱きつきたくなるといった魅力が必要であると考えました。

「聖母」に至るまで

今回私のイメージの主軸となったのは「聖母マリア」でした。
宗教に疎い方でも一度は見たことのあるでしょう聖母マリアの慈愛に満ちた表情、子を抱く姿というのは理想的なハグの形でしたし、私のターゲットユーザーの疲れている人は主に多忙な学生や社会人であり広く捉えると10代後半〜60代前後であり親や愛しい人とのスキンシップからは疎遠になりがちな人達ですから、愛しさと同じく「安心感」も必要なのではないかと考えたため今回は数ある宗教画のなかでも私のイメージの主軸となった宗教画イルサッソフェラートの「マドンナと子供」をヒントにしたものを考えていき、マリアの立ち姿や体つきを参考にしこちらの椅子のデザインになりました。

「抱かれ」感を重視した機能

幼少期抱っこしてもらえたりハグしてもらった親や身の回りの大人達の体は当時の私達にとってとても大きく感じたものでしょう。
小さな私達を包んでくれたあの大きな腕や体をマリアのイメージと重ね合わせながら素材によって変わる温かみ等に注意しながらデザインをしていきました。
横幅約900mm高さ約1150mmとシングルベットがそのまま椅子になったような過剰なサイズ感とより人体感を考えた構造にすることであたかも巨大な人に抱かれているような感覚を再現しています。

最後に

私がこの3年間デザインを学び、集大成としてこの作品を発表し思ったことは「私ってこうなんだな」でした。
見てわかる通り少しネタと言えるような要素の多い作品に少なからず笑う方もいらっしゃるとおもいますが、それでいいんです。私が求めているのはそれなのです。
心に余裕がないからと周りに冷たくしたり傷つけたりした経験そしてされた経験、皆様にもあると思います。本当に小さなことですが、こういった小石のような問題を取り除いてあげなければストレス社会を解決することは難しいと考えています。だからこそ大きな社会問題や障害を持つ方の直接的な手助けにはなれない作品かもしれませんが、笑ったり共感したりでほんの少しでも心が軽くなって悲しい連鎖が起きないような心、余裕を持てるきっかけになれればと思っています。

芹澤比加里
静岡県富士市生まれ。
中高美術部の生粋の絵描き。幅広くやれるのが楽しくてPDを専攻。
徹夜が伝統芸の桑沢において徹夜をせずに3年間無事やりきりました。

今回の卒制はボードが評価対象というのとCADソフトがボイコットを起こしそうなデザインでしたので全ての作品画像を手書きのレンダリングスケッチで制作しました。そこにも注目していただけると幸いです。

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