南無阿弥陀仏

郭玟秀

『当たりのないゲーム』
『南無阿弥陀仏』スロットマシン・アクリルパネル・バックライトフィルム

両極端の視点から「欲望」を捉える

「そもそも、快楽ってなんだろう。」と考え始めたのは、2019年の冬。その後、神経科学、心理学、哲学、そして仏教と出会いました。その中に一番印象深かったのは、「なぜ今、仏教なのか」という科学の角度から仏教の思想を解釈する本でした。私は宗教的な角度ではなく、哲学的な角度から仏様の教えに魅了されました。
人間が生きてる限り、様々な欲望のために行動しています。肯定されたい、お金持ちになりたい、出世したい。欲しかった物を手に入れてもさらに欲しくなる。私たちを取り巻く煩悩から自由になるためには、どうすればよいのでしょうか。
自分はこういった無限の欲望に対して、時々思わずに満たしたい。時々本当に苦しくて、仏教の教えのように欲望を手放したい。まるで頭の中で天使と悪魔が常にケンカしているような感じですが、その「ケンカ」を意識することによって、より客観的に自分を捉えることができ、世界、社会、他人とどう共存するかという究極の疑問の答えにも繋がると思います。

回り続けてる欲望

スロットマシンと仏教、当たりのないゲーム

本作品は、欲望の溢れるパチンコを形とし、欲望を手放すと主張する仏教を霊とした作品です。欲望とどう共存するかという心中の葛藤を表現してみました。
チベット仏教の壁画の視覚言語をベースにし、一見見ると、通常のスロットマシンと雰囲気的に似ているかもしれないですけど、よく見ていただくと、生老病死の文字や、五重塔や仏様の顔をしてる招き猫など、たくさんの仏教要素が取り入られています。
中間部のリールは同じ図柄で、三つの色違いバージョンにしました。要するに、これは当たらないスロットマシンです。あたりに見えても、あたりではない。欲望が満足されたに見えても、それは真の満足ではない。永遠にぐるぐる回り続けることを象徴しています。

『色即是空、億万長者』
『億万長者・御朱印』

五感で楽しませる作品を作りたかった

きっかけになった作品は、タイのアーティストJakkai Siributr氏の作品でした。沢山のターキーヤ(イスラム教徒の白い帽子)が壁にかけていて、遠くから見ると真っ白で平和な風景だけど、手に取って、帽子の裏側を覗いてみると、宗教間の対立による暴力事件をテーマにしたイラスト刺繍があります。
すごく印象深かった。自分の手で作品を触れることによって、作品とコネクトすることができ、作者の意思とコンセプトを超えた、見る人だけの独特な経験が得られることがわかりました。その後、ずっとビジュアルだけではなく、五感で楽しませる作品を作りたかったです。卒業制作でこの念願を叶って心の底から良かったと思いました。展覧会にお越しいただく方々が楽しく遊んでいただき、その上でさらに何かのヒントになれば嬉しいです。

展示会の風景

参考文献
ロバート ライト『なぜ今、仏教なのか――瞑想・マインドフルネス・悟りの科学』早川書房, 2018
スタジオワーク『仏像とお寺の解剖図鑑』エクスナレッジ , 2016
謝斌,王謙,何鴻『白居寺壁画』浙江撮影出版社, 2019
王謙『夏鲁寺壁画』浙江摄影出版社, 2019
Owen Jones『Grammar of Chinese Ornament』Collins & Brown, 1997

郭玟秀
台湾出身。
大学で社会科学を専攻し、「少しでも自分のチカラで世界を変えたい」という理念で、ビジュアル・情報デザインを勉強し始めた。
趣味はパン作りと異国料理巡り。辛い物大好き。

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